八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明 

 国土交通省関東地方整備局による八ッ場ダム事業の検証が行われていましたが、9月13日に八ッ場ダムが最適の利水対策および治水対策であるという検証案が示されました。
これに対し、学者グループが検証の抜本的なやり直しを求める声明を下記の通り発表しました。




八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明


 八ッ場ダム計画は構想から間もなく60年になろうとする中、ダム本体工事着工の是非が問われている。この間、ダム予定地のかけがえのない自然と地域社会が破壊され、地質の脆弱さ、ダム計画の杜撰さにより工期延長、事業費増額が繰り返されてきた。
すでに3,000基近くのダムを抱えるわが国では、生態系の破壊、地すべりの誘発など、ダム建設によってもたらされる様々な問題が知られるようになり、ダム建設を主とした河川行政の見直しが課題となっている。
こうした情勢を受け、民主党政権は八ッ場ダムの予断なき検証を約束し、国民はその推移を注視してきた。しかしながら、2011年9月13日に関東地方整備局が示した八ッ場ダム検証結果(案)ならびに検証過程は、「予断なき検証」とは程遠く、科学性・客観性が欠如したものといわざるを得ないものであった。
以下の理由により、私たちは八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める

 第一に、事業の主目的の一つである利水について、水需要の減少傾向が明らかであるにもかかわらず、その実績を無視した架空予測をそのまま認め、そのことを前提とした非現実的代替案との比較しか行っていない。現実と乖離したデータを用いての検証は、科学的といえるはずがない。

 第二に、いま一つの主目的である治水についても、代替案の事業費が跳ね上がるように八ッ場ダムの効果を過大に評価した上での代替案との比較しか行っておらず、利根川の治水についての本質的な議論は皆無の検証作業であった。特に、カスリーン台風豪雨に対して、八ッ場ダムの洪水調節効果がまったくないことは国交省も認識しているところであるが、これについて検証されていない。また、今年の台風12号のように「和歌山県のダムが記録的な豪雨によって治水機能を失ったが、八ッ場ダムが自然の猛威に対応できるものなのか」、「近年多発している局地的な豪雨に対して八ッ場ダムはどれほど効果的なのか」といった、流域住民が生活レベルで感じる疑問には何も答えていない。

 第三に、ダム本体や周辺地域環境で懸念されている災害対策が不問のままである。八ッ場ダム予定地は、わが国有数の活火山である浅間山と草津白根山の下流に位置する。江戸時代・天明三年(1783年)の浅間山の大噴火では泥流が流れ下り、多数の死傷者のあった地域である。八ッ場ダム完成後に浅間山の大噴火が起こった場合、ダム湖やダム本体、下流域にどのような影響が起こりうるのか、検証されていない。また東日本大震災のような巨大地震が生じた際、ダム本体の安全性は担保されているのか、ダム湖湛水後の地すべりの危険性にはどう対応するのか、これまでに例のない30mの超高盛り土により造成された代替地は崩落しないと確約できるのかなど、最近の地震活動を考慮した議論はなされぬまま検証結果が出されている。自然の猛威によってダム事業が生命・財産を危機にさらしうることへの対策が不可欠であるという事実を直視しない検証作業が、果たして「予断なき」「科学的・客観的」検証と言えるのか。
 
 現在の八ッ場ダムの検証は、事業を進めてきた関東地方整備局みずからが行ってきた。流域住民の生命・財産を守る利水・防災のためのダム建設の是非を検討する検証は、真に科学的・客観的な検証を可能とする第三者機関の設置が不可欠である。従来の河川行政に批判的な専門家も加えた、公開の場で八ッ場ダムの公正な検証を実施することを要請する。

2011年10月26日


呼びかけ人
今本健博(京都大学名誉教授・河川工学)
宇沢弘文(東京大学名誉教授・経済学)
牛山積(早稲田大学名誉教授・法学)
大熊孝(新潟大学名誉教授・河川工学)
奥西一夫(京都大学名誉教授・防災地形学)
川村晃生(慶応大学教授・環境人文学)
関良基(拓殖大学准教授・森林政策学)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授・物理学)
西薗大実(群馬大学教授・地球環境学)
原科幸彦(東京工業大学教授・社会工学)
湯浅欽史(元都立大学教授・土質力学)
                     
                     
賛同者(10月23日現在59名)
青山貞一(東京都市大学・環境政策)、足立久男(東京農業大学・地質学)、
阿部祥人(慶応大学・考古学)、池田こみち(環境総合研究所・環境政策)、
泉桂子(都留文科大学・森林計画学)、岩松研吉郎(慶応大学名誉教授・日本文学)、
上田邦子(滋賀県立大学・土壌生物学)、鵜飼哲(一橋大学・フランス文学)、
大塚泰介(琵琶湖博物館・水産生物学)、荻野芳彦(大阪府立大学名誉教授・農業水利)、
小野有五(北海道大学・環境科学、地理学)、春日正伸(山梨大学名誉教授・応用物理学)、
鬼頭秀一(東京大学・環境倫理学)、久保田喜裕(新潟大学・地質学)、
五味渕典継(大妻女子大学・日本語文学)、坂巻幸雄(元工業技術院地質調査所・地質学)、
柴崎直明(福島大学・水文地質学)、嶋津暉之(元東京都環境科学研究所・衛生工学)、
島本美穂子(法政大学・経済学)、関耕平(島根大学・地方財政論)、
関根孝道(関西学院大学・環境法)、瀬戸昌之(東京農工大学名誉教授・環境学)、
瀬山士郎(群馬大学名誉教授・数学)、高田直俊(大阪市立大学名誉教授・土木工学)、
鷹取敦(環境総合研究所・環境予測)、高野庸(群馬大学名誉教授・科学教育)、
高橋満(東京大学名誉教授・経済学)、高安克己(島根大学名誉教授・環境地学)、
滝沢俊治(群馬大学名誉教授・物理学)、竹内智(山梨大学・環境科学)、
竹本弘幸(拓殖大学・地質学)、田中学(東京大学名誉教授・農業経済学)、
辻本利雄(明治薬科大学・基礎化学)、寺西俊一(一橋大学・環境経済学)、
直野敦(東京大学名誉教授・言語学)、中村庄八(地質学)、深澤英隆(一ツ橋大学・宗教学)
永橋為介(立命館大学・コミュニティデザイン論)、中山俊雄(応用地質研究会・応用地質)、
中川鮮(元京都大学防災研究所・砂防工学)、中山弘正(元明治学院大学学院長・経済学)、
西川伸一(明治大学・政治学)、野村哲(群馬大学名誉教授・地質学)、
橋山禮治郎(千葉商科大学・政策評価論)、濱田篤信(霞ヶ浦生態系研究所・水圏生態学)、
古沢広祐(國學院大学・環境社会経済学)、保母武彦(島根大学名誉教授・経済学)、
松本武祝(東京大学・農業史)、町村敬志(一橋大学・社会学)、
三木敦朗(信州大学・森林政策学)、村上勝彦(東京経済大学前学長・経済史)、
村上修一(滋賀県立大学・造園学)、森聰明(元弘前大学・触媒化学)、
柳下登(東京農工大学名誉教授・農業生物学)、柳沢透(慶応大学・経済学)、
矢吹晋(横浜市立大学名誉教授・中国経済論)、山口幸夫(原子力資料情報室・物理学)、
山本美穂(信州大学・森林政策学)、吉川成美(早稲田環境塾・農業経済学)

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