必要なのはまず検証! 

当サイトでも科学的データや実態を後悔し、「検証」「検証」と毎回呪文のように唱えているが、テレビの検証度はまだあまりに低い。
2009年9月22日JANJANに掲載された成瀬裕史さんの検証記事がとても分かりやすいので紹介させていただきます。

【いま八ッ場ダム議論にもとめられる冷静な判断】~マスコミが煽る感情論ではなく科学的な論点整理を~成瀬裕史2009/09/22

■改めて「中止を明言」した鳩山内閣
 “ムダな公共事業”の象徴として民主党マニフェストに明記されていた「八ッ場ダム」。
 「鳩山総理」指名前から、「中止反対」住民協議会が発足したのを皮切りに、関係6都県の“自民系”“民主系”議連双方が「早期完成」「建設中止・生活再建」の要請を決めるなど、関係者の動きが活発化していたが、9月16日の鳩山内閣発足後、鳩山新首相、前原新国土交通相は、改めて「中止」を相次ぎ「明言」した。
いま八ッ場ダム議論にもとめられる冷静な判断 | 八ッ場ダム建設予定地の概観(国交省・八ッ場ダム工事事務所HPから)八ッ場ダム建設予定地の概観(国交省・八ッ場ダム工事事務所HPから)
■“感情論”に訴えがちなマスコミの論調
 この鳩山内閣の「中止明言」を受け、地元・群馬県の大澤知事が「地元の意見を聞かずに中止とは言語道断」と怒りをあらわにし、周辺5都県の知事も「中止の際には支出済負担金の返還を国に求める」ことで一致するなど、「八ッ場ダム問題」を巡る論戦・報道も、一気に“ヒートアップ”して来た感がある。

 こうした中、テレビ・新聞等マスコミの論調の多くは、「継続と中止のどちらがムダか」や、「国の施策に翻弄された地域住民の苦悩」などが中心となっており、ともすれば“感情論”に訴える余り、世論が「事の本質」を見誤る懸念さえ感じられる。

いま八ッ場ダム議論にもとめられる冷静な判断 | 利根川のダム位置と想定氾濫区域図(国交省・八ッ場ダム工事事務所HPから)利根川のダム位置と想定氾濫区域図(国交省・八ッ場ダム工事事務所HPから)
■いま一度論点を整理し「八ッ場ダム問題」を“科学”する?
 「脱・官僚主導」「税金のムダづかい根絶」を掲げて「政権交代」を実現した鳩山政権にとって、その象徴ともいえる「八ッ場ダムの中止」は、公約実現の “試金石”である。これを実行できない場合、「やっぱり公共事業を止められなかった」と国民の“失望感”を誘って政権が“急降下”しかねず、「何としてでも」事業中止を“断行”する構えである。

 しかし、一方で、水没する地域住民の移転も“決着”しており、“かさ上げ”道路の橋脚が「既成事実」として現に存在する中、公約とはいえ「中止の強行」が真に「国民のため」なのかは、正直、疑問が残る。

 鳩山首相はかつて衆院選に初出馬した際、「政治を科学する」をキャチフレーズとしていたようだが、“感情論”に流されがちな「八ッ場ダム問題」に対して、国民・関係者も“冷静な判断”が行えるよう、今一度、この問題に対する「論点整理」が必要なのではあるまいか。

 このため、(1)「民主党はどういう理由でダム中止を主張しているのか」、(2)「八ツ場ダムとはどういう理由で作られるのか」、(3)「何が問題となっているのか」を整理した上で、(4)「それではどうしたらいいのか」について、私なりに整理を試みてみたい。
(これ以降、少し長めの記述となりますので、結論をお急ぎの方は“見出し”を参照願います。)

■検証1…民主党の主張する「ダム中止」の“理屈”は「暮らしのための政策」財源
 民主党マニフェスト (PDF)では、2頁目に「政治とは、政策や予算の優先順位を決めることです。私は、コンクリートではなく、人間を大事にする政治にしたい」と鳩山代表の署名入りで主張を述べている。

 また、4頁目の「1.ムダづかいをなくすための政策」で、「国の総予算207兆円を徹底的に効率化。ムダづかい、不要不急な事業を根絶する」とし、公共 事業の節約額1.3兆円の説明の中で、「川辺川ダム、八ツ場ダムは中止。時代に合わない国の大型直轄事業は全面的に見直す」としている。

 これを素直に解釈すると、「暮らしのための政策の財源のために、不要不急な八ツ場ダム建設を中止する」という脈略となる。
 このため、八ツ場ダム建設が「不要不急な事業」であるかどうかの“検証”が必要と考えられる。

■検証2…「八ツ場ダム」の目的(1)[治水] の有効性には「甚だ疑問」
 それでは、八ツ場ダムの「建設目的」はどういうものなのか。
 国土交通省関東地方整備局の八ッ場ダム工事事務所のHPにある『八ッ場ダムの役割について』を見ると、『八ッ場ダムはどんなダム?』 には、「利根川水系の支川・吾妻川の中流域に位置し、貯水量は約1億m3、東京ドームの約87個分に相当」とある。

 また、『役割その1…洪水から暮らしを守る』 では、「増水時に貯水し少しずつ流すことで洪水発生を防ぐ」ため、「6,500万m3の調節容量を確保し毎秒2,400m3の流水を調節」し、「群馬県内の下流沿岸はじめ利根川下流の茨城・埼玉・千葉・東京等首都圏の洪水被害が軽減」としている。

 HPをここまで見て私の素朴な疑問は、毎秒[2,400]m3だと[6,500万]m3の容量は「7時間半」で一杯になってしまうが、果たして大雨による増水は「7時間半」で収まってくれるのであろうか? ということである。

 また、HPには「想定氾濫区域面積は1,850k㎡、区域内の資産額約50兆円、人口約450万人に影響が及ぶ」とあるが、[6,500万m3]を [1,850k㎡]で割ると[3.5cm]となるが、洪水の水かさが3.5cm下がったとして、どれだけの被害軽減につながるのであろうか?と思ってしま う。

 「巨大ダム」をもってしても、「自然の猛威」の前では「ささやかな抵抗」に過ぎないのではないか?
 示された数字の単なる割り算に過ぎないが、そんな“シロウト計算”でも、「洪水を防止する機能」については「甚だ疑問」と言わざるを得ない。

■検証3…「八ツ場ダム」の目的(2)[利水] の有効性にも「疑問符」
 次に、『役割その2…増え続ける水需要を支える』  では、「首都圏を抱える利根川水系では水需要が逼迫、取水が不安定で2~3年に1回渇水が発生」しているが、「八ッ場ダムが完成すると、水道用水としては 茨城・群馬・埼玉・千葉・東京の147区市町村へ、工業用水としては群馬・千葉の14市町という広範囲に供給が可能」とある。

 また、「新規開発水量は、通年毎秒9.580m3」とあるが、これを年換算する約[3億]m3で、年間一人当たり水道使用量を[100]m3とすると[300万]人分となり、「相当な水量が開発される」と認められる。

 しかし、一方で、同HPの『深刻化する渇水問題』 では、「関東地方の主な渇水被害」の発生時期は夏期の7月~9月に多いが、一方で、「洪水期」(7月1日~10月5日)は大雨に備えてダムを空けておく必要があり、利水容量は非洪水期の9,000万m3に比べ洪水期は2,500万m3と“大きく減少”することとなる。
 どうも私には、ダムによる「治水と利水の両立」は“難しい”ように思われる。

■検証4…計画から半世紀が経つ「八ツ場ダム」は、まさに「不要不急な事業」
 また、HPには『事業の経緯』  として、「八ッ場ダムは昭和27年、カスリーン台風(昭和22年)の大被害をうけ、ダムを築いて洪水調節を行い被害軽減を図る治水事業として計画されまし た」とあるが、普通に考えると、「計画から半世紀以上経っても実現せずにいる」事業は、少なくとも「急」を要する事業ではあるまい。
 また、前述の「治水・利水の有効性」からみても、「不要」とは言わないまでも、その「有効性」について私は“疑問符”を付けざるを得ない。

 わが国の財政状況は深刻な状況が続き、国の借金も莫大となっている一方、国民の生活も賃金の低下や失業の増加で厳しさを増している中、「暮らしのための 政策」を犠牲にしてまで、「ダム建設」を優先するべきではないという“判断”は、先の総選挙の結果からみても、「国民の大多数の判断」であることは間違い なかろう。

 しかし、だからこそ求められるのが、「国民の大多数の利益」のために「不利益を蒙る」地元住民・自治体に対する「十分な配慮」である。

■検証5…「国の身勝手」に付き合わされ翻弄され続けた「地域住民」及び「地方自治体」
 ダム工事事務所HPの『事業の経緯』  を見ると、昭和20年代の「事業の構想開始」から昭和40年代の「調査から建設に移行」し、昭和60年代の「移転による生活再建への合意」を経て、近年の 「補償・代替地分譲調印」と、地域住民は、ほぼ20年ずつかけながら「計画反対」から「基本合意」、そして「移転調印」まで半世紀の年月をかけ、やっと “漕ぎ着いた”ところである。
 そんな矢先での「中止明言」である。「国の身勝手」に翻弄されるのは「もうこりごり」との思いであろう。

 一方、地元群馬をはじめとする1都5県はこれまで費やされた事業費3,210億円のうち1,985億円を負担している。
 先の総選挙の直前、全国知事会は「国の直轄事業の地元負担」を問題視していたが、事業中止となった場合、当然のことながら「国に負担金の返還を求める」と全ての知事が表明している。

■検証6…「継続」に係る費用と「中止」に係る費用の単純比較は“危険”
 さらに一部マスコミでは「継続より中止に係る費用が上回る」と報道されている。
 民主党がマニフェストで主張した「ダム中止」の“理屈”は、「暮らしのための政策への財源のための不要不急な事業の中止」であり、継続より中止の方が費用が上回るのであれば、「ダム中止」の“根拠”を失うこととなる。

 前原国交相は報道番組で「中止の場合、自治体がこれまで拠出した負担金を治水費も含め返還を検討する」との考えを明らかにしたようだが、その場合、1都5県がこれまで負担した総額1,985億円を返還することになる。
 さらに今後執行を予定する事業費1,390億円のうち生活再建関連770億円についてはある程度必要となる。これを単純に比較すると、継続:1,390億円に対し中止:1,985億円(プラス生活再建費)となり、中止の方が費用が上回ることとなる。
 
 しかし、自治体に返還される1,985億円は、当然のことながら「地域主権」に基づき、自治体の判断に基づいて使われることとなる。これを自治体が「暮らしのための政策への財源」に回さないと決め付けるのは「失礼」ではあるまいか。

 また、事業を継続した場合の「完成後」の維持管理費は明らかになっていない。「反対派」住民などからは「地すべりの危険性」も懸念されているという。現 時点における継続に係る事業費1,390億円と中止に係る返還額1,985億円の単純比較だけで結論の出せる問題では、当然あるまい。


■結論…“新政権”が為すべきは、「地域住民に対する“遺憾の表明”」と「中止のための“新たなシステム”作り」
 以上を踏まえ、今後“新政権”が「何を為すべきか」について、私見を述べていきたい。
 先の総選挙で民意に基づく「政権交代」により「国」を代表する立場となった新政権の鳩山総理・前原国交相が、まず真っ先にしなければならないことは、 「民意」に基づく「ダム中止への方向転換」により多大な影響を蒙る地域住民・自治体に対し、(身勝手な?)「国」を代表して「遺憾の意」を表明することで はないだろうか。その上で、今度は「ダム中止への基本合意」に向けた話合いのテーブルに載って貰えるよう、誠意を持って対応していかねばなるまい。

 また、関係自治体に対しては、国の直轄事業に都道府県が負担することの是非とともに、「国の都合」で事業を中止した場合の支払済みの負担金の「返還のあり方・手法」についても、併せて考えて「新たな道」を作り出していかなければなるまい。
 これは「地域主権」をマニフェストに掲げたて誕生した“新政権”にとって、避けて通れない「国民との約束」な筈である。

 さらには、事業中止による関連業界・従事者への「配慮」も必要である。
 国土交通省は、9月11日から予定していた入札を一時凍結したが、ダム工事で生計を立てている建設業者およびその従事者にとって「ダム中止」は、文字ど おり「死活問題」である。「国民の暮らしを守る」ことをマニフェストに掲げて総選挙に勝利した“新政権”にとって、建設業従事者の「生活を守る」ことも、 同様に“最優先”されるべき事項であろう。

 「ダム中止」に基づく地域住民の「新たな生活再建計画」の検討とともに、公共事業に代わる「新たな地域の振興策」についても、国・国土交通省として“腰を据えて”取り組み、建設業従事者の「新たな仕事への転換」の検討も進めていく必要がある。

 以上に掲げた事項は、多分、これまで国・自治体が経験したことのない取り組みであろう。
 「事業継続」に比べクリアすべき問題点は格段に増すこととなるが、「国民主権への歴史的転換」への“民意の選択”により誕生した“新政権”である。「国 民との約束」を果たすため、この“茨の道”に怯むことなく突き進んで行って欲しいと、「政権交代」に期待し“新政権”に一票を投じた者として、切に思うの である……。


【追記】
 この原稿を書き上げようとしていた9月21日の22時過ぎ、ネットのニュースで、「前原国交相は21日、「建設事業を中止する方針は変わらない」とした 上で、「中止に向けては最大の被害者ともいえる地元住民や関係都県、利水者などとの合意形成が不可欠」との認識を示し、「じっくりと話し合う姿勢を堅持 し、生活再建事業も中断しない」とのコメントを発表した、と報道された。

 「政権公約の実現」と「地元の意向」とのはざ間で、国交相の動向が注目されていたが、“及第点”と思われる対応に、まずは「ほっと胸をなでおろした」ところである。
 
 「国民の大多数の利益」のために「不利益を蒙る」地元住民・自治体に対する「十分な配慮」を行いながら、「政権公約を実現」する難しさを、“新政権”政府はもとより、マスコミ、そして国民自身が認識し、ある程度「長い目」を持って臨む必要があるのではないか?

 「脱官僚・国民主権への歴史的転換」は“一朝一夕”では終わらないのだから……。

【いま八ッ場ダム議論にもとめられる冷静な判断】~マスコミが煽る感情論ではなく科学的な論点整理を~成瀬裕史2009/09/22

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