2015年2月7日、八ッ場ダム本体建設工事に対する抗議文 

2015年2月7日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
国土交通大臣 太田 昭宏 殿
茨城県知事  橋本 昌  殿
栃木県知事  福田 富一 殿
群馬県知事  大澤 正明 殿
埼玉県知事  上田 清司 殿
千葉県知事  森田 健作 殿
東京都知事  舛添 要一 殿
    
                 八ッ場あしたの会(代表世話人 大熊 孝 他)
               八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会(代表 嶋津暉之)
 
  八ッ場ダム本体建設工事起工式に抗議し、本体工事の中止を求めます
 国土交通省関東地方整備局は本日、八ッ場ダム本体建設工事起工式を開催し、八ッ場ダムの本体工事を本格的に進めようとしています。
 しかし、八ッ場ダムは治水・利水の両面ですでに必要性を喪失しており、かけがえのない自然を壊して災害誘発の危険性をつくり出すだけの有害無益な事業に堕しています。このまま本体工事に突入して、ダムを完成させれば、将来世代の大きな負の遺産となることは必至ですので、私たちは本体工事の起工式に抗議し、本体工事の中止を求めます。
 以下、詳述します。
1 コンコルドの誤謬を踏襲してはなりません
 コンコルドとは、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機です。開発当初からコンコルドを実用化しても採算が取れない見通しが明白であったにもかかわらず、開発計画を中止することができず、2000年の墜落事故で113人が死亡して2003年に全機が退役し、巨額の損失をもたらしました。これ以上の投資をしても損失が拡大するだけであることをわかっていながら、これまでに投資した費用等を惜しんだり、責任を問われることを恐れたりして、投資の継続をやめられないことを「コンコルドの誤謬」といいますが、八ッ場ダムはまさしく将来世代に大きな損失を残す「コンコルド」であり、その誤謬を踏襲してはなりません。
2 水需要が縮小し、水余りがますます顕著になる時代に八ッ場ダムが必要ですか
 6都県の都市用水の需要は減少の一途を辿っています。6都県上水道の一日最大給水量は節水型機器の普及等により、最近20年間に約230万㎥/日も減りました。この減少量は八ッ場ダムの開発水量の1.6倍にもなります。これからは人口が減少していくので、水需要の減少に拍車がかかり、水余りがますます顕著になっていくことが確実に予想されます。このように水余りが一層進行する時代において八ッ場ダムによる新規水源開発が必要であるはずがありません。
3 治水効果が希薄な八ッ場ダムの河川予算を利根川流域住民の安全を真に守る治水対策に回すべきです
 利根川は昭和22年のカスリーン台風の後、河川改修が進められ、利根川の本川では過去65年間、洪水時の越流がありません。流下能力が大きく増大したことにより、現在は大きな洪水が来ても堤防天端からかなり下を流れていて十分な余裕があり、八ッ場ダムによるわずかな水位低下は意味を失っています。治水対策として無意味な八ッ場ダムを中止して、その河川予算を、利根川流域住民の安全を確保するために必要な喫緊の治水対策、すなわち、内水氾濫対策と脆弱な堤防の強化対策に使うべきです。
4 名勝・吾妻渓谷と水没予定地のかけがえのない自然を壊してよいのでしょうか   八ッ場ダムの建設工事によってダム予定地・水没予定地のかけがえのない自然が失われつつあります。「関東の耶馬溪」と言われ、大勢の観光客が訪れている名勝・吾妻渓谷は、八ッ場ダムによって上流部の1/4が壊されるだけではありません。ダム完成後は下久保ダム直下の三波石峡のように、岩の表面をコケが覆い、草が生い茂って、最大の魅力である美しい岩肌が失われ、無残な姿になることが必至です。国の天然記念物・川原湯岩脈も失われてしまいます。また、90数年前に若山牧水が讃え、その保全を強く願った群馬県有数の素晴らしい自然林がダム本体工事の進行とともに壊されつつあります。
5 地質がきわめて脆弱な場所にダムを建設することによる災害の誘発についてだれが責任を負うのでしょうか 
 八ッ場ダムの貯水池予定地は、熱水変質帯、応桑岩屑流堆積物、崖錐堆積物などの脆弱な地層が広く分布しており、ダム完成後に貯水して水位を上下させると、地すべりを誘発する危険性が十分にあります。国交省の10年以上前の調査でもダム貯水池予定地で地すべりの可能性があるところが22か所に及んでいます。しかし、八ッ場ダムの地すべり対策費は現在はたったの6億円しかなく、国交省は安全性を犠牲にしてダム建設にまい進しています。八ッ場ダムによって将来、地すべりが引き起こされた場合、その災害の誘発についてだれが責任を負うのでしょうか。
6 堆砂速度が計画よりはるかに早く、八ッ場ダムは機能が次第に失われていきます  八ッ場ダムは底部に100年分の堆砂容量が設計されていますが、国交省は堆砂速度の見込みを著しく過小評価しています。近傍の既設ダムの堆砂実績から見ると、八ッ場ダムは計画の数倍以上の速度で堆砂が進み、治水・利水機能が次第に失われていくことが予想されます。このように早期に機能を喪失していくダムをつくって意味があるのでしょうか。
 
7 白砂川の酸性水中和事業は永遠に続けられるのでしょうか 
 吾妻川支川・白砂川の水質は強酸性水で、コンクリート構造物を溶かしてしまいます。そのため、酸性水の中和事業が行われていますが、中和生成物等を溜める品木ダムはすでにほぼ満杯になっており、ヒ素を含む堆積物の捨て場所に困窮しています。この白砂川の酸性水中和事業は永遠に続けられるのでしょうか。品木ダムが満杯になれば、ヒ素を含む中和生成物が八ッ場ダムに流入し、新たな問題が発生することになります。
8 八ッ場ダムは今後、事業費の大幅増額が避けられず、流域住民、国民の負担が増大していきます
 八ッ場ダムは事業費が日本一大きいダムですが、現在の4600億円(そのほかに水源地域整備事業997億円、水源地域対策基金事業約200億円)に収まることはありません。2011年の検証で国交省自身が地すべり対策などで183億円の増額が必要であることを示しました。さらに、東京電力の水力発電所への減電補償や、代替地の整備費用の大半の負担、地すべり対策費の更なる増額も考慮すると、500億円以上の増額になることも十分に予想されます。事業費増額への関係都県の反発を恐れて国交省はひた隠ししていますが、八ッ場ダムは事業を続ければ、事業費の大幅増額は避けられず、流域住民、国民の負担が増えていくばかりです。
9 将来性がない「ダム湖観光」ではなく、豊かな自然と歴史遺産を活かした地域振興を進めるべきです
 「ダム湖観光」による地域振興が盛んに宣伝されていますが、八ッ場ダムは他の利根川上流のダムと違い、吾妻川の中流域に位置し、ダム予定地の上流域では観光業、酪農業、畑作も盛んであるため、八ッ場ダム湖は多量の栄養塩類が流入し、植物プランクトンの異常増殖が予想されます。そして、八ッ場ダム湖は夏場は洪水調節のため、28メートルも水位を下げます。水量が少なく、水質の悪化が進む八ッ場ダム湖はとても観光資源にはなりません。
 八ッ場ダム予定地にはきわめて貴重な、縄文時代各期(草創期~晩期)の遺跡と江戸時代の天明浅間災害遺跡があります。豊かな自然と歴史遺産を活かした地域振興はダム湖観光よりはるかに将来性があります。
 以上述べたとおり、八ッ場ダムは治水・利水の両面で必要性が失われ、様々な災いをもたらすダムでありますので、本体工事を中止することを強く求めます。
 今も水没予定地には住民が生活しています。それにもかかわらず、国交省は拙速に本体工事に着工し、土地収用手続きで住民を追い出そうとしています。このことについても抗議の意思を表明します。

利根川の渇水(取水制限について) (「八ツ場あしたの会 事務局だより」より転載)  

事務局だより : 利根川の渇水(取水制限について)
2012年9月13日

 群馬県では一昨日、夕立がありましたが、しばらくはまだ30度以上の夏のような日が続くようです。

 利根川の取水制限について、解説をお送りします。
 田んぼでは稲刈りに備えて、水を落とします。これまで大量に取水されていた農業用水の利用が急減する季節を迎えています。

 利根川の渇水については、先にお伝えした解説もご参考になさって下さい。
 http://yanbachiba.blog102.fc2.com/blog-entry-225.html

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 利根川の取水制限について

 9月11日から利根川の10%取水制限が始まりました。
 テレビは貯水率が最も低くて湖底が露出した矢木沢ダムを取り上げて、渇水到来の危機を伝えてきましたが、節水に努めることは必要だとしても、それほど心配する状況ではありません。

 9月中旬以降にもなれば、秋雨前線と台風の到来でまとまった雨が降る可能性が高くなってきますが、問題はそれだけではありません。
 まず、矢木沢ダムは、貯水率が5~6%(貯水量600~700万㎥)となっていますが、これは発電専用容量の貯水3,820万㎥を含まない貯水率であり、それを入れると、貯水率は30%近くまでに跳ね上がります。

 利根川水系8ダム全体の貯水量は上記の3,820万㎥を除いて、9月12日現在、1億3千万㎥/程度で、貯水率は約38%ですが、水需要の面でこの貯水率が今後、急速に減っていくことはありません。それは農業用水の取水量がどんどん小さくなってきているからです。

 以下の図は利根川で最大の水利用者である利根大堰の農業用水の最大取水量を半旬別(約5日)にみたものです。

2012_toneoozeki.jpg
    〈注〉上図は国交省が利根川の利水計算に用いた計画取水量を示す。

(画像をクリックすると原寸大で表示します)


 6~8月には最大で60~65㎥/秒も取水していたものが、9月に入ってからは20㎥/秒、10㎥/秒へと次第に小さくなって、10月からはゼロになります(冬期の試験通水のための取水量を除く)。なお、東京都水道の取水量は各水系の河川水と地下水を合わせて、最大で55㎥/秒ですから、利根大堰の農業用水の取水量は大変大きなものです。それがゼロに向かって小さくなってきているのです。

 利根川の渇水は近年では2001年に起きましたが、これは実質たった5日だけの渇水でした。その前の夏期の渇水は1996年で、8月16日に取水制限が始まり、9月14日まで続きました、その間,30%の取水制限まで行われましたが、その段階でも給水制限は給水圧の調整にとどまり、生活への影響は軽微でした。
 今回の渇水を1996年渇水と比べると、渇水の時期が1月近く遅れており、その間に上述のとおり、農業用水の需要の急減がありますので、水需要の面ではるかに有利です。

 また、首都圏の都市用水も当時と比べると、需要の規模が小さくなっています。
 その点で、今回の渇水を冷静に受け止めていただきたいと思います。

 なお、八ッ場ダムがあっても、その夏期の貯水容量は2,500万㎥しかありませんので、渇水の状況を大きく好転させるものにはなりえません。

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 以下のブログも、利根川の渇水について、わかりやすい解説を載せています。

 ●http://seisaku-essay.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-05f1.html
 「取水制限」の利用方法~石原都知事の場合

 ●http://blogs.yahoo.co.jp/spmpy497/7140884.html
  ダムと渇水完結編ー政策的思考と渇水対策 

利根川の渇水(「八ツ場あしたの会 事務局だより」より転載) 

事務局だより : 利根川の渇水
2012年9月5日

 残暑が続く中、利根川の渇水が新聞、テレビで大きく取り上げられ、利根川上流の矢木沢ダムの湖底が露出した映像が放映されています。
 これを見た人の中には、「やっぱり八ッ場ダムは必要なんじゃないか」と思う人もいるようです。

 こういう時は、マスコミが何を報道し、何を報道しないのか、実際はどうなのかをまず把握することが大切です。

 国土交通省のホームページには、利根川水系8ダムの貯水率や過去の渇水のデータなども掲載されています。
http://www3.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/teikyo/realtime/data/html/Page1.html
 矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、下久保ダム、草木ダム、渡良瀬貯水池

 上記ホームページを見ると、利根川水系8ダム全体の貯水率が40%(9月4日現在)であるのに対して、矢木沢ダムは5%で極端に低くなっています。下久保ダム、藤原ダムは70%の貯水率で、ダムによって貯水率がかなり違うことがわかります。

 同じ利根川水系でも鬼怒川水系の3ダムのデータは、こちらで見られます。
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000112.html
 五十里ダム、川俣ダム、川治ダムの現在の状況
 
 鬼怒川系3ダムは貯水率が73%です。 

 東京都水道局のホームページには、東京都の水源である利根川水系、荒川水系、多摩川水系の各ダムのデータが載っています。
 荒川水系4ダムは68%、多摩川の小河内ダムは83%であり、他の水系は余裕があります。 
 http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/suigen.html
 荒川水系ダムー浦山ダム、荒川貯水池、滝沢ダム、二瀬ダム
 多摩川水系ダムー小河内ダム(貯水池)、村山・山口貯水池

 荒川水系の二瀬ダムは貯水率が0%となっています。これは二瀬ダムが洪水調節の役割のために、ダムの水を放流し、台風シーズンに備えているためで、例年通りの状況です。 

 一昨日、9月3日に国交省では利根川水系渇水対策連絡協議会幹事会が開かれ、その結果が関東地方整備局のホームページに掲載されました。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/saigai/kyoku_dis00000063.html
 
 今後のことについては、「今後も少雨傾向が続いた場合、利根川上流8ダムからの補給は更に続くものと予想され、かんがい期における農業用水及び都市用水の需要が継続する状況下において、現在のダム容量を有効に使うとともに、必要に応じ取水制限等の対応を実施しなければならない事態も考えられます。」

 と書かれており、今しばらく様子をみるようです。

 その理由は、9月に入って農業用水の取水量が大幅に落ち込んでいること、そろそろまとまった雨が降る可能性が高くなっていることにあると思われます。

 渇水について問題とすべきことの一つは、ダムから下流への補給が適切に行われたのか、過大な放流でダム貯水量を必要以上に減らしてしまったのではないかということです、

 随分前の渇水ですが、1987年渇水、1994年渇水では、ダムの過大放流が問題になりました。

 以下のグラフは、ダム貯水量、ダム補給量、利水基準点「栗橋」の流量を7月1日~9月2日の期間について整理したものです。

2012_tonegawa_graph_20120922162651.jpg

(画像をクリックすると原寸大で表示します)



 これを見ると、8月前半は栗橋(埼玉県、利根川の利水上の基準点)の流量が、確保すべきとされている正常流量を大きく上回っているときもダムから補給が盛んに行われており、やはりかなりの過大放流があったのでないかと疑われます。
 この正常流量そのものも過大に設定されていて、ダムの過大放流を促すようになっています。

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 上記の説明文の中で使われている用語(ダム補給量、栗橋)について、ご質問が寄せられましたので、説明を補足します。

【ダム補給量とは・・・】
 ダム補給量はダムの貯水を使って下流に補給した量を意味します。ダム補給量=ダム貯水量の減少量です。
 ただし、ダム貯水量の減少量がマイナスの場合(貯水量が増加する場合)はダム補給量はゼロです。
 上記のとおり、ダム補給量はダム貯水量から計算します。ダム貯水量は水文水質データベースに掲載されています。

【利根川の利水基準点は、なぜ埼玉県の栗橋なのか?】
 利根川の治水の基準点は八斗島(群馬県伊勢崎市・やったじま)ですが、利根川の利水の基準点は栗橋になっています。(下図参照)
 利根川水系河川整備基本方針の正常流量は栗橋で設定されています。
 ダムとの関係を見ても、利根川水系8ダムのうち、草木ダムと渡良瀬貯水池は渡良瀬川にありますので、渡良瀬川が利根川に合流した後の栗橋を基準点にする必要があります。

     【利根川流域図】

tonegawa-map_20120922163032.jpg

(画像をクリックすると原寸大で表示します)


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 上記の記事の続きを「利根川の渇水」(取水制限)として以下に掲載しています。9月になると取水量が急減する農業用水が渇水を考える上でのキーワードであることを指摘しています。こちらも合わせてご参考になさってください。
 http://yanbachiba.blog102.fc2.com/blog-entry-226.html

☆ 矢木沢ダムについて、利根川のダムの歴史を研究してきた梶原健嗣さんがブログでわかりやすい解説記事を連載しています。
 http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=1715