八ッ場ダムの治水効果2.6倍かさ上げの虚構 

八ッ場ダムの治水効果2.6倍かさ上げの虚構


関 良基(拓殖大学准教授)


 関東地整による八ッ場ダム検証は虚偽のオンパレードである。治水面最大の虚偽は、ダムによる洪水流量の削減効果が従前の数字から2.6倍に跳ね上がったことだ。従前は、ダムによる洪水ピーク時の流量の削減率は平均2.7%とされていた(じつに微々たる効果)。それが今回の関東地整での検証では、ダムによる削減率は6.9%と計算された。ダム建設の当事者とダム検証の主体が同一という利益相反関係を前提とすれば、いくらでも都合のよい数字が偽造できるという当然の事実があらためて浮き彫りになった。
 しかし、この間に基本高水を検証してきた日本学術会議が明らかにした利根川の流量観測資料を読み解けば、この数字が虚偽であることは明らかになる。
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 図はいずれも横軸に総降雨量を取り、縦軸には総降雨のうち何ミリが河川に流出したのかという流出高を取ったものである(2011年6月8日、日本学術会議第9回日本学術会議河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会提出資料より)。
 上の図は利根川上流の宝川流域、下の図は八ッ場ダム建設予定の吾妻川流域の観測データ。宝川流域では200㎜の雨に対して100㎜程度が河川に流出していることが読み取れる。吾妻川を見てみよう。200㎜の雨に対し何と50㎜程度しか流出していない。宝川では降雨量に対する流出量は最大68%(傾き0.68)であるのに対し、吾妻川は降雨の32%(傾き0.32)程度しか流出しないことが明らかになった。
 なぜか? 吾妻川流域は浅間山、草津白根山、榛名山と火山だらけである。新しく形成された火山岩層は十分に固まっていないため、ザルのように雨水を地下に浸透させる。そのため川への流出量は40%以下となる。新しい火山岩土壌は地すべりを起こしやすく、さらに雨水を吸収しやすく水を貯めにくい。この二つの点を考慮すれば、吾妻川はダムを造ってはいけない川ということになる。
 国交省の従前のモデルでは、吾妻川流域では川への流出率は最小でも50%、部分的に最大100%として計算されていた。検証の結果、流出率は40%に変更された。吾妻川に流出する流量は実際には少ないことが明らかになったのだから、ダムで削減できる流量も下がらなければならない。ダムの治水効果が増大することは原理的にあり得ない。虚偽は明らかなのである。
 ちなみに、国交省は奥利根流域では、流出率は最大100%になるとして洪水流量を計算している。図のように実際には最大でも70%程度しか流出しないことが明らかになっている。100%と70%の差額分、国交省は過大に計算していることになる。私が、観測データに基づいて流出率を70%に改めて計算すると、基本高水流量は国交省の主張する2万1100㎥/秒から大きく下がって16,663㎥/秒となった。この点は東京高裁に意見書として提出している。
 虚構の数値が大手を振ってまかり通り、マスコミはそれを鵜呑みにして報道し、ダム建設にGOサインが出ようとしている。もうこの国は終わりではなかろうかと悲嘆にくれる毎日である。「なんでこんなバカげた事業をやったのか」と後世から糾弾されるのは明らかであり、せめて最後まで闘わねば子孫たちに申し訳ないと思う。わずかでも可能性を信じて、最後まで頑張りましょう。


関良基さん写真
関 良基 (セキ ヨシキ)  
 1969年信州上田生まれ。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科修士課程修了。
 同大学院博士課程修了。博士(農学)。早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、
 (財)地球環境戦略研究機関・客員研究員などを経て、拓殖大学政経学部助教